◆彼女のことは好きで好きでたまらないんだ
大事なときに連絡もつかず、酔って帰ってくるとはなにごとかとミドリさんは怒った。すると夫は突然、涙ぐんだ。追及の手を緩めずに詰問(きつもん)を続けると、夫はとうとう「ごめん、好きな人ができた」と涙をこぼしたのだ。
「そんなこと言わないでよ、と思わず叫んでしまいました。あのときの夫の涙が忘れられない。娘と私のことは家族として命に替えても大事な存在、なのに彼女のことは好きで好きでたまらないんだと夫は、リビングの床に座り込んで、ひとりごとのように言うんです。たまらなくなった私は深夜に家を飛び出しました」
飛び出したところで行くあてなどない。近くのコンビニでビールを買い、公園のブランコに座ってひとりでちびちび飲んでいた。飲み終わって携帯を見ると30分しか経っていなかった。ひとりで時間をつぶすのはむずかしいと思った記憶があるという。
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