ドラマではお市の苦悩を察した侍女の阿月(伊東蒼さん)が、長政の裏切りを報告すべく金ヶ崎城に向かうことになるようです。阿月はドラマオリジナルの架空のキャラクターとみられますが、「あづき」という名前からして、小豆の袋の逸話を踏まえているのでしょう。しかし予告映像では「阿月が参りましょうか」と申し出る場面があったので、もしかしたら、お市の命令で伝令に向かうというより、主人に迷惑がかからないよう、阿月が(表向き)独断で知らせに行ったという展開になるのかもしれません。

 史実において、信長が長政の裏切りを信じた背景にお市の関与があったかは不明ですが、仮にそうだったとしていくらお市が長政の愛妻であったとしても、浅井家の情報を敵対する信長に横流ししていたことが発覚したのなら、無事では済まないでしょう。ペナルティとして彼女の命を即座に奪わざるをえないでしょうし、そうならなかったとしても、当時の武家の女性の考え方からすると、お市は自害を試みるのでは、と考えるほうが自然な気がするのです。

 しかし、そうはなりませんでした。お市の方は長政と共に小谷城に立てこもり、元亀2年(1571年)8月に長政の命で娘たち3人を連れて城外に脱出するまで、行動を共にしています。長政がお市の方を人質にしていたと考えることもできますが、それなら最後の最後に娘たちだけでなく彼女まで解放するのはどこか不自然に感じられます。

 史実のお市は、兄・信長より、夫・長政に対して肩入れする度合いが大きかったのではないでしょうか。だからこそ、兄と夫の間で板挟みとなり、史実においては具体的な行動は何も起こせなかったのではと筆者は考えているわけです。