自分は立派な男じゃないと繰り返しながら火起こしを続ける優斗。紗枝は傷だらけの優斗の手に絆創膏を貼ってやりながら、自分も生徒に無視されるような教師だったと言い、「でも、もう過ぎたことです。今を大事にしましょう。過去を変えることはできないけれど、今ここで火をつけることはできる。未来を信じましょう」と語り掛ける。そして直哉も火起こしを手伝いながら「これ、俺はやらないよ。手が傷だらけになったら、髪切れないからな。お前ができるようになって、俺は他のことをやって、そうやって協力し合う。ひとりで背負うな。“俺ら”でやってくんだよ」と伝える。そして優斗はとうとう火起こしに成功し、優斗と直哉は思わず抱き合って喜ぶのだった。

 延々と火起こしをする優斗は「優しく頼れるリーダー」だった第3話までと打って変わり、痛々しくさえ見えた。苦悩あふれる本音を吐露し、直哉と紗枝に励まされるシーンは弱さを抱える若者そのもの。“リーダー”優斗の抱えるギャップは想像以上に深く、重いが、それを引き上げてくれる直哉と紗枝の存在が今後の人生を好転させるきっかけになることを信じたい。

 第2話までは考え方があまりに違うあまりいがみ合う直哉と優斗だったが、自然と抱き合うまでに至った。また、これまでリーダーシップを執ってきた優斗に代わり、直哉は回を追うごとに「主人公」らしい強さが見られるように。直哉の秘められた強さと優しさは、希望を失いがちな乗客の心の支えになっていきそうだ。そんな2人がこれまで隠してきた弱さと強さが互いを支え合い、協力して行った火起こしを成功させ、抱き合って喜ぶ……。山田裕貴と赤楚衛二が演じてきたものがひとつの到達点にたどり着いたような、本ドラマにおける屈指の名シーンと言えるだろう。本作の脚本は、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』(2015年)にも関わり、『中学聖日記』(2018年)や『恋はつづくよどこまでも』(2020年)などを手掛けてきた金子ありさ。人間の心の機微を描くのがうまい金子脚本が、直哉と優斗の絶妙なバランスを生んだ。