「名探偵・勝呂武尊」シリーズ(野村萬斎主演/15年ほか)

 アガサ・クリスティーの原作を三谷が手掛けたシリーズ。現在までに、「オリエント急行殺人事件」(15年)、「黒井戸殺し」(18年)、「死への約束」(21年/すべてフジテレビ系)の3作品が放送されており、おそらくまだ続くだろう。人形劇「新・三銃士」(09年/NHK)、「シャーロック・ホームズ」(14年/NHK)などの例はあるが、彼が原作ものを手掛けるのは珍しい。3作とも舞台を昭和期の日本に移してはいるものの、比較的原作に忠実にドラマ化されている。

 名探偵のエルキュール・ポワロに当たる勝呂武尊役を演じるのは、野村萬斎。海外のポワロ俳優たちは比較的でっぷりとした体形の印象があるが、三谷によると、小柄で細身な萬斎の方が原作のイメージに近いそうだ。ひげの感じとか、キザなセリフ回しとか、まさにポワロそのもの。シリーズ化されたのもうなずける。

 特に最初の「オリエント急行殺人事件」では、2夜連続放送の第2夜で事件の経緯を犯人側から描くという、大胆な試みを仕掛けている。原作を知っている視聴者であれば、このアイデアの秀逸さがよく分かると思う。実際、「古畑任三郎」シリーズ(フジテレビ系)でも、「犯人側の視点と古畑側の視点を両方描くのに1時間では足りない、90分枠にしてほしい」と要望を出していたという三谷。本作ではたっぷり描けてうれしかったに違いない。

 そして、第2弾の「黒井戸殺し」では、映像化不可能な意外な犯人ものとしてミステリー史上に名高い名作「アクロイド殺し」に挑戦している。「黒井戸殺し」というタイトルだけで、既に一本取られた感じだが、原作では最終盤に登場するシークエンスを冒頭に持ってくる工夫が効果的だった。萬斎が演じる勝呂のポワロっぽさも、存分に味わえる。第3弾の「死への約束」も、前の2作とは違う正統派(?)の犯人探しが楽しめるほか、勝呂の淡い恋心が描かれるのも見どころだ(この部分は三谷のオリジナル)。