【ぼくたちの離婚 Vol.25 シュレーディンガーの幸せ 後編】
書籍化・コミック化も果たした、「男性側の視点から見た離婚」に迫る人気ルポ連載「ぼくたちの離婚」。本記事は、「妻の顔色だけをうかがう生活」を8年に及び続けた男性の真意に迫るルポの後編です(前編「生活費も家事もほぼすべて夫が負担…『妻の顔色だけをうかがう生活』を続けた理由」)。
※以下、稲田さんによる寄稿。
園田圭一さん(仮名/39歳)は27歳のとき、当時24歳の莉子さん(仮名)と結婚。しかし約2年後、ヒステリーを起こして食器を壊す莉子さんに恐怖した園田さんは、以降、莉子さんの顔色をうかがうだけの毎日を過ごすようになる。話だけ聞けば地獄そのものの夫婦生活。しかし驚くべきことに、園田さんは「それが異常な状態だということに気づいていなかった」という。
◆なぜか「負担」でも「苦痛」でもなかった
「うちは物心ついた頃から両親の仲が最悪で、母が再婚した継父も異常に感情表現の乏しい人だったので、普通の夫婦、普通の家庭がどういうものなのか、わからなかったんです。母親はヒステリーだし、再婚後も不倫していましたからね。そういう異常な状況に対する適応能力が高すぎて、莉子との日々が“負担”とか“苦痛”とかいう実感がありませんでした。だから、僕自身のメンタルは一切病まなかった」(園田さん、以下同)
驚きだ。過去のバツイチ男性取材で、この手の「妻から尋常でない不機嫌をぶつけてこられる」人は大抵、疲弊を極めて自分自身も心療内科にかかっていた。園田さんは相当なレアケースだ。
「幼い頃にハードな環境で鍛えられたせいか、僕、自分の心のバランスを取るのがものすごく上手いみたいなんです。考えても解決できないことは意思の力で考えないようにできますし、傷つきそうになったら事なかれ主義も決め込める。いつ、いかなるときでも、完璧に心を整えられます」
莉子さんとセックスレスになってからは、風俗にも通った。
「それも心のバランス取りです(笑)。何かにつけ、心に空いた穴を秒で埋めるスキルが高かったんでしょうね。だから、ことさら『この結婚生活は苦しい。今すぐ逃げ出したい』と歯を食いしばっていたわけではないんです」
つまり、莉子さんとの結婚生活は、続けようと思えばいくらでも続けられた。