3.恩田陸『夜のピクニック』

 

2017年に『蜜蜂と遠雷』が第156回直木賞と2017年本屋大賞をダブル受賞し大ベストセラーを記録した小説家・恩田陸。作者の名前が多くの読者に知られるきっかけとなった作品が2004年に刊行された『夜のピクニック』です。本作は第26回吉川英治文学新人賞と第2回本屋大賞を受賞、青春小説として金字塔を打ち立てました。作品の舞台になるのは、丸1日をかけて80キロメートルもの距離を歩くある進学校の伝統行事「歩行祭」です。

クラスメイトで異母兄妹でもある3年生の西脇融と甲田貴子の微妙な関係を軸に、高校最後のイベントに臨む登場人物たちの友情や恋愛を抑制的かつ絶妙に郷愁を誘う端正な文体で描いています。等身大の高校生の心情を描いたストーリーが大好評を博した本作ですが、主人公である融と貴子の目線は同級生たちに比べてどこかさっぱりしたものです。

「歩行祭」という非日常の行事を通じて個々人によってまったく異なる“青春像”が浮き彫りになり複雑に交錯しているところが、この小説が幅広い層の読者の心をつかんで離さない最大の理由かもしれません。

【基本情報】
著者:恩田陸
出版:新潮社
価格:文庫本825円(税込み)/電子書籍703円(税込み)

4.津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー!!』

 

芥川賞作家の津村記久子による『ミュージック・ブレス・ユー!!』は、モヤモヤを抱えてウダウダと青春期を過ごした(あるいは、今まさに過ごしている)読者に心地よい読後感を与えてくれる傑作です。第30回野間文芸新人賞に選ばれた同作は、どうしようもなくパッとしない人間のありさまを、飾り立てることなく潔く活写しています。

主人公のアザミはパンクロックをこよなく愛する高校3年生で赤い髪とヘッドフォンがトレードマークです。学力はいまひとつで他人とうまく付き合うことも苦手というタイプですが、小説のタイトル通り音楽が彼女にとっての祝福であり恩寵となっています。そんなアザミに勉強を教えてくれる友人のチユキ。

アザミは他の女によってバンドのメンバーから押し出され、チユキは好きな男にフラれてしまうなど彼女たちの日常はお世辞にもパッとしているとは言えません。しかし彼女たちの自然で風通しのよい会話や突飛な行動の数々が平凡な毎日を生きる多くの読者に勇気を与えてくれます。音楽好きはもちろん「自分は軽んじられているのでは?」と感じている人にぜひ読んでほしい青春小説です。

【基本情報】
著者:津村記久子
出版:角川書店
価格:文庫本572円(税込み)

遠出ができないときは、想像の世界で羽を伸ばそう

さまざまな事情によって遠出やぜいたくがかなわなくても想像の世界で羽を伸ばすだけで人間の魂というのはいくらか救済されるものです。ここで紹介した青春小説のほかにも国内外を問わず夏休みの読書にふさわしい作品は山ほどあります。青春期の葛藤を引きずっている人もその感覚をすっかり忘れてしまったという人もこの機会にゆっくりと読書を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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