4月14日にはブレンダン・ウィットワースCEOが「私たちは人々を分断させる議論の一部になるつもりはなかった。ビールを飲みながら人々を結びつける仕事をしている」と声明を発表し、キャンペーンが騒動を引き起こしたことについて事実上、謝罪した。マルバニーさんの起用に関わった担当役員らは、休職扱いになっている。

 それでも、保守派の反発は収まらず、売り上げが急落したまま5月に入った。一方でライバルのクアーズやミラーはライトビールの売り上げを急増させている。専門家は「マルバニーショックは一過性ではない」との見方を強めており、トップブランドの座の維持を危ぶむ声が出始めた。

 アンハイザー・ブッシュはこれまでも、虹色ボトルの「バドライト」を販売するなど、性的多様性を意識した商品を展開してきた。それでも、これまで保守派から大きな反発はなかった。マルバニーさんの場合は、2022年10月、トランスジェンダーを代表する形で、ホワイトハウスでバイデン大統領と面会している。このころから保守派はマルバニーさんを個人攻撃の対象にしていた。アンハイザー・ブッシュがこうした点を熟知していれば、キャンペーンに起用しなかったかもしれない。

 企業としての緻密さの欠如が不買運動を誘発したのかもしれないが、アンハイザー・ブッシュは、性的多様性に対する保守派の反発を少々、甘く見ていたのかもしれない。