◆ドラマの完全オリジナルの和歌に涙

 その頃、家光が催していたのは哀しい宴。流していたのは、有功には分かってほしいという涙だったろうか。そこに、十分に美しくありながら、キリリとした眉と、丈のあわない着物から覗く男らしい手首に違和感を残す有功。原作での有功は、女性も敵わぬ美しさを放ち、コミックの世界ならではの説得力があったが、ドラマでは人が演じるゆえの生々しさがあった。そして、「ほら、上様のほうがよほどお似合いにございます」と打掛をかけた優しい声に続く「千恵様」の呼びかけ。彼女は、空虚な字面でしかない上様なんかじゃない。千恵だった。奪われた自分が体に戻った瞬間だった。この一連のシーンの福士も堀田も、大奥という修羅の道で身を寄せ合うまさに雛のようであった。

 詠まれた和歌は、ドラマの完全オリジナルである。

「凍え雛 一羽身を寄せ 坊主雛 千の恵や 功有らんと願ふ」

 千恵と有功の名が溶け合う見事な和歌、見事な脚色に涙しながら脱帽した。ドラマ演出としては、続く、緩急のある吉宗と村瀬正資(石橋蓮司、家光編では岡山天音)のシーンも良かったが(村瀬が口にした“雛”のたとえは原作に登場。これが上の和歌を生んだ)、こうして少しばかりホッとさせるシーンを挟みつつ、まだまだ男女逆転の修羅の道は深まっていくのだ。しかし支えを得て、自分を取り戻した家光は、次回、千恵でも、名ばかりの上様でもなく、女将軍・家光として皆の前に立つ。この堂々たる堀田の姿が、予告編ですでに素晴らしかった。第4話も期待できる!

<文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi