◆家光の魂の叫びに胸がつぶれた第3話

 第3話では、「名前」が印象に残った。原作では“若紫”の由来と名づけの意味について取り立てて語られることはなく、上様も「わしより良い名をもらった」と『源氏物語』からの名だとすぐに理解したようだったが、そうした教育を受けていないのか、ドラマでの上様は『源氏物語』を知らず、おそらくは自らも気づかぬうちに、“若紫”と名を付けた有功についても知りたくて『源氏物語』を読む。だがやがて“若紫”は、大奥に渦巻く闇の犠牲となる。

 有功が、「若紫の弔いを」と家光のもとに参じてからの1対1の激しいぶつかり合いは、見ごたえ十分で、同時に胸がつぶれるようだった。家光の「名を取り上げられ、女のなりも取り上げられ、にも関わらず女の腹だけは貸せと言う」は、まさに魂の叫びであり、相手が有功だからこそ、叫べたことでもあった。しかしそのときの有功は「わたしかて好きでこんなとこ来たんやない」と跳ね返してしまう。

 そしてようやく、正勝(眞島秀和)から、有功に、そして私たちに、家光の真の姿が語られた。父からの愛など受けぬ存在として生まれ、赤面疱瘡で亡くなった家光公の血筋を繋ぐために、いっときの身代わりとして探し出され、目の前で母を切られ、春日におなごとしての髪を切られた。そして「今日からあなたが上様です」と自分自身を奪われたのである(ご内証の方の起源も登場した)。その後の彼女の日々は、地獄でしかなかったはずだ。