わかりにくいからこそ、映画館で観てほしい
特に多くの人がびっくりするであろうことは、イーオーがひどい暴力を振るわれた後に、その姿が「ガラリと変わる」様。もちろん、暴力的な痛みから逃れるための比喩的な表現ではあるのだが、「こう描くのか!」と発想そのものに驚けるのだ。
さらに、トラックの運転手が女性に不遜なことを聞くエピソードの顛末も、「そうくるとは思わなかった!」と予想の斜め上の事態にギョッとできる。その良い意味での「やりすぎ」な言動から現代らしいフェミニズムのメッセージを受け取れるかもしれないし、別のエピソードからも人間の愚かさや「業」を再確認できるかもしれない。
そんなわけで、解釈が人によって分かれる、誰もが飲み込みやすい娯楽作とは真逆のアート系の作品であり、『エッセンシャル・キリング』や『イレブン・ミニッツ』などで知られるイエジー・スコリモフスキ監督作を観たことがないという方は特に戸惑うだろう。
ただ、そのわかりにくさも含め、映画の中の世界に「浸る」ことができる劇場で観ると、なんだか心地良くもなってくるので不思議なものだ。撮影がとにかく美しいということもあるので、スクリーンで堪能する機会を逃さないでほしいと心から願う。
なお、スコリモフスキ監督は「これまで撮ったどの作品よりも感情に基づいた物語を撮りたかった」とも語っている、わかりやすく語られる論理や理屈ではない、人間が放つ感情に注目して観るのもいいかもしれない。スコリモフスキ監督が「私が唯一、涙を流した映画」と語る、1966年のフランス・スウェーデン合作映画『バルタザールどこへ行く』 にインスパイアされているとのことなので、そちらを観てみるのも良いだろう。
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