アメリカにおける黒人女性のステレオタイプのひとつが「髪型が崩れるのを嫌う」というもの。それをジョークにし、人種の入り混じる会場を笑わせてみせた。またユダヤの教義の中で、甲殻類を食べることが禁じられていることとカニであるセバスチャンをかけてジョークにし、多方面に矢を放った。その上で、最後に、

「というか、アリエルが黒人だってことに怒る人たちはさぞかし“楽しい”人生を送ってるんだろうね。何か大きな問題を抱えてるようにしか思えない。きっと『あ~アリエルが黒人なら、私がスキューバダイビングに出かけたときに、彼女に財布を盗まれるわ』とか言い出すんだろうね」

 アリエルが黒人だというだけで怒りを覚える人々は、黒人を見ると泥棒だと思う差別主義者と変わらない、と痛烈に断罪するこの皮肉はいかにもノーマンドらしい。

 ノーマンドにとどまらず、コメディの舞台ではこのように、加熱するネット上の批判を嘲笑する傾向が見て取れる。そしてそれは白人からの視点、黒人からの視点、アジア人の視点とそれぞれの視座に基づいていることはいかにもアメリカらしい。

 5月26日に全米で公開される『リトルマーメイド』。いよいよディズニーが提唱する2023年型のアリエルがお目見えとなる。ハリー・ベイリーが多くの人々にとってのMy Arielとなることに期待したい。