ギリギリのラインを攻めた笑いで知られる白人コメディアンのマーク・ノーマンドの十八番は、観客からのお題を即興でジョークにする芸。昨年、予告編が公開されたばかりの9月、客席に向かってノーマンドは問いかけた。

「なにか喋ってほしい題材はあるかい?」

 すかさず、客のひとりが

「黒人のリトルマーメイド!」

と叫ぶ。白人の視点から語ることがリスキーな題材なだけに、会場に緊張感が走ったが、ノーマンドは横に置いたドリンクをぐいっと飲み干すと、得意の飄々とした語り口で話し始めた。

「まず、フィクションの魚が黒人かどうかってことをいったい、どこのどいつが本気にしてるんだよ。俺は黒人の女と付き合ったことあるけど、みんな髪が濡れるのを嫌がってたよ。それがいちばんの問題さ。それにもし、ユダヤ人のアリエルだったら、カニと戯れられないからダメだろ」