新型コロナウイルス感染症対策として、多くの企業でテレワークが導入されはじめています。テレワークには、「満員電車に乗って通勤しなくていい」「朝ゆっくり過ごせる」などのメリットもありますが、テレワークが原因で「うつ病」になる人が増えているとも言われています。テレワークによるうつ病の原因や予防法について、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科教授である井原裕先生にお話を聞かせてもらいました。

(©TAKUMI JUN)

テレワークで日常生活のリズムが奪われる?

――新型コロナウイルスの影響で社会的にテレワークが増えましたが、この働き方がきっかけとなりうつ病になることはあるのでしょうか。

井原裕先生 (以下、井原):テレワークの人が“うつ”になるとしたら、その理由は1つではありません。一番の問題は、日常生活の健康なリズムが奪われてしまうということです。毎日決まった時刻に起きて食事をし、出勤して働き、帰宅する――そういう生活の基本となるリズムがなくなってしまうのです。リズムが崩れると人間のメンタルは簡単に崩れます。

リズムが崩れる極端な例が、国際線のキャビンアテンダントです。日本の航空会社所属なら、東京~ニューヨーク~東京~パリ~東京~ケアンズ~東京~リオデジャネイロという感じでフライトします。行った先々でその都度現地時刻に合わせていたら、身体のリズムが適応できず、メンタルがやられてしまうのです。

――身体のリズム(体内時計)に合わせて生活する、というのがポイントなんですね。

井原: 基本的に、人間の身体は24時間リズムで動くようにできています。ですから、昨日と同じ時刻に起きて、同じ時刻に朝食・昼食・夕食を取り、同じ時刻にお風呂に入って、同じ時刻に寝る。こういう生活を毎日続けていると心の調子は一番穏やかになるものなんです。

逆に、起床就床のタイミングがバラバラだと毎日が時差ボケ状態であり、メンタルも不安定になってしまいます。

体内時計を狂わせないことが大事

――体内時計は生まれながらにしてインプットされているのでしょうか。

井原: そうです。地球上に生きている生命は、すべて地球のリズムにシンクロナイズする=同期して生きるようにプログラムされています。人間だけではなくすべての動物が地球の24時間リズムに合わせて動くようにできているのです。

そもそも地球というものが先にあって、そこに生命体ができたわけで、 生き残っている生命体というのは基本的に地球のリズムに合わせて体をつくってきたということになります。

テレワークの場合、就業規程などがなければ何時に起きてもいいし、いつまで寝ていても構わないということになる。普段であれば朝9時から会議があったり、朝礼があったりするのに、それがないということも。日課が決まっていたのに何もない=ペースメーカーがないとなると、身体はなかなかリズムを取りにくいのです。

――では、どのように生活するのがいいのでしょうか。

井原: 具体的に言えば、会社に勤めていたころと同じリズムで生活することでしょう。例えば、普段は6時に起きて朝ごはんを食べて、7時に出発して電車を乗り継いで、8時半に会社に着くという人ならば、普段と同じように6時に起きて朝ごはんを食べ、それから少しウォーキングをしたっていいんです。8時半にはデスクについて自宅の自分の机で在宅勤務の仕事をする。

このようにある程度パターン化させた方がいいと思います。

運動量の減少も影響してしまう

――ほかにも「コロナうつ」の原因はあるのでしょうか。

井原: 例えば運動不足です。通勤しているときは、朝、駅まで歩き階段を上り、乗り換えのときにまた階段の上り下りがあり、最寄り駅に着いたら会社まで歩く。会社に着いたらまた階段の上り下りをして、自分のデスクに着きます。

そんなふうに通勤だけで結構歩いていたはずです。そして、帰りも朝とは逆のルートを同じようにして家に帰ります。ただ通勤をしていただけですが、結構いい運動になっていたのです。

つまり、それまでは自然に7,000歩、8,000歩、9,000歩と歩く生活をしていたのが、在宅勤務になると急に歩く機会がなくなります。人間というのは、歩かなくなる、動かなくなるとうつになってしまうんです。

すなわち、2つ目の要素は、歩数が減る、運動量が減るというところにあると思います。