登場人物一人一人に巧みにフォーカスする構成力の高さ

 その野心に応えるごとき配役も、また豪華で楽しい。主演の松本は、正直ここまであまりいいところがなくかわいそうな印象だが、その分、周りの人物が思い思いに躍動している。個性派ぞろいの家臣団は年齢もタイプもまちまちながら、部活のようなわちゃわちゃ感がある。“戦国最強”とか“自称三河一の色男”とか、いちいちキャッチフレーズがあるあたりも、どこかアニメの戦闘チームっぽい。中でも山田裕貴や杉野遥亮など、若手俳優陣が存在感を見せている。おそらく意識的だと思うが、年や身分の差を気にせず率直に意見を戦わせるシーンが多いのが、印象に残る。そして、有村架純が演じる瀬名や北川景子が扮(ふん)するお市の方ほか、女性陣もみんな一様に物おじせず自ら時代を切り開く強さを持っている。

 今回の「どうする家康」の大きな特徴として、各エピソードで1人の人物に大きくフォーカスして描くというスタイルがある。その構成もトリッキーで、気を付けて見ていないと、意図するところがよく分からない。4月16日放送・第14回でも、冒頭いきなり海辺で干し柿をめぐる阿月(伊東蒼)の“かけっこ”が描かれて「どういうこと?」と思った方も多いことだろう。しかし、45分見終わると、これが見事に効いてくる。阿月とお市の方の交流が、金ヶ崎の戦いという歴史の分岐点と劇的に交差する。まさに、古沢脚本の本領発揮。この回の阿月もそうだが、第10回のお葉(北香那)や第12回の今川氏真(溝端淳平)など、心に深い印象を残す人物が何人もいる。家康を主人公としながら多くの登場人物を掘り下げることで、時代を重層的に描いていこうという古沢氏の思いが伝わってくる。