◆映画館で観てこその「浸る」タイプの作品

©2023『サイド バイ サイド』製作委員
 本作はわかりやすい娯楽作ではなく、ゆったりしたテンポで展開し、美しい田舎の風景や坂口健太郎を眺め、不思議な物語に身を委ねて、「浸る」タイプの作品でもある。

 作風としては、『惑星ソラリス』などのアンドレイ・タルコフスキー監督や、『MEMORIA メモリア』などのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督にも近い。そうした雰囲気になじみのない、テンポの早いサスペンスや普通のドラマの作品を期待していた人にとっては、良くも悪くも戸惑ってしまうかもしれない。ある種の霊的なファンタジー要素そのものにも、飲み込みづらさを感じる人もいるだろう。

 だが、そうした戸惑いや飲み込みづらさを超えたところにある、心地良さこそが本作の魅力だ。ゆったりとしたテンポも、田舎の風景や坂口健太郎の美しさを見せるため、多層的な物語に思索をめぐらせるためのものと言える。そのため、本作は早送りができない、他に邪魔が入らない映画館で観てこそ、真に楽しめる作品と言っていい。

 個人的な本作のベストシーンは、終盤で坂口健太郎が「あるもの」を探しに行こうと提案した後の、そのものズバリ「あるもの」がスクリーンに映し出される、その光景だった。また、「えっ!?」と驚いてしまう人が多いであろう結末は賛否両論かもしれないが、これまでの主人公の物語を踏まえれば、個人的には納得できるものだった。一緒に観た人と解釈を話し合ってみるのも一興だろう。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

「女子SPA!」のほか「日刊サイゾー」「cinemas PLUS」「ねとらぼ」などで映画紹介記事を執筆中の映画ライター。Twitter:@HinatakaJeF