◆“空虚”でありながら“神秘的”かつ“信頼したくなる”魅力
主人公は田舎でただ主夫をしているだけではない。彼は、そこに存在しない“誰かの想い”を見ることができる能力を持っていて、身体の不調に悩む人や、トラウマを抱えた人を癒やすセラピー的な活動もしている。その能力が絡んだ、“そばにいるが他の人には見えない謎の青年の正体”や、“主人公の過去に何があったのか”といった謎が解き明かされる過程も見どころとなっている。
また、主人公は穏やかでやさしい青年だと前述したが、その一方でつかみどころがなく、言ってしまえば“空虚”な印象も持つ役柄でもある。服はベージュの上下の服、もしくは無地のパーカーを着ていて、そこからも生活感がないというか、浮世離れしているようにも見える。しかも彼は中盤で、齋藤飛鳥演じる女性についての、常識的にはあり得ない、異様な状況を恋人にはっきり見せてしまう。
この役を下手に演じてしまったり、キャスティングミスをしてしまうと、過剰に不信感や嫌悪感を持ってしまいかねない。だが、坂口健太郎に独特の透明感があり、ひとつひとつの言葉に誠実さを感じさせる力があるからこそ、絶対的に“神秘的”かつ“信頼したくなる”説得力を持たせることができているのだ。
その異様な状態からの、「落ち着いたらちゃんと話したい、その時には時間をください」という言葉も、きっと信じたくなるだろう。
その神秘的かつ信頼したくなる説得力をさらに増大させるのは、劇中でたびたび告げられる「おいで」という言葉だ。「ちょっと待って」と動悸が激しくなるほど、すべてを預けたくなる「おいで」の破壊力が絶大なので、坂口健太郎ファンは気をしっかり持って、その「おいで」に聞き惚れて、良い意味で悶絶してほしい。