◆BLドラマの頂点を見た『チェリまほ』

『チェリまほ』が画期的だったのは、安達が30歳の誕生日を童貞のまま迎えたことで身に着けた魔法の力だ。誕生日の朝以来、オフィスフロアに上がるエレベーター内など、肩や手が触れた相手の心の声が読めるようになる。この特殊能力を得た安達は最初こそ戸惑うものの、徐々に相手の心の声に対して彼も心の中で反応してつぶくようになる。

 まるで心の声の連打のようなモノローグを聞いているだけでドラマが成立してしまうのは驚きだった。黒沢が自分のことを好きだとを知り、受けとめるかどうかで安達が葛藤する。そして物語が展開するにつれて、安達のモノローグ自体がどんどん繊細な心の襞(ひだ)を絡ませていく。

 黒沢の告白を受け止めきれず、お互いの感情がこれでもかと高まる第7話はエモかった。黒沢が安達のことを好きになるきっかけが黒沢自身のモノローグで回想される。告白後の現在の状況に戻ると、傷心の黒沢が大阪出張中、切ないモノローグを響かせる。タクシー車内の黒沢の「もう忘れるんだ。次会ったら」から、オフィスで悶々とする安達の「次会ったら、全部元通り。黒沢はそう言った」にバトンが戻る瞬間は、BLドラマのひとつの頂点を見た気がした。