事務所的な匂いを排したキャスティング

――『世界の終わりから』について聞かせてください。これまでの華やかなオールスターキャスト作に比べると、通好みな配役ですね。社会派映画『空白』(21)や『さがす』(22)での演技が高く評価された伊東蒼、単館系の作品で活躍する毎熊克哉、Netflixドラマ『今際の国のアリス』で体を張っていた朝比奈彩といったこれからが楽しみなキャストが多い。

紀里谷 キャストだけでなく、スタッフも事前に一度面談をして、僕の考えを伝えて、「それでもいい」と答えてくれた人たちと組んでいます。いわゆる事務所的な行政が、僕は大嫌いなんです。誰がランクが上だとか下だとか。そうした事務所的な匂いがすることは排しています。実力主義だし、本当にいいものを創りたいと思っている人たちに集まってもらっています。俳優部、撮影部、照明部……、みんな同じ立ち位置で参加してもらっています。日本の映画界は事務所の力が強いというけど、じゃあそれに対して何か策を講じたのですかと。今回は撮影期間が1カ月と限られた制約がありましたが、奇跡的に撮り切ることができました。

――日本のインディペンデント映画なら撮影期間1カ月は普通かもしれませんが、これまでの紀里谷監督作品に比べると非常にタイトなんですね。

紀里谷 「神がプロデューサーだ」と僕は思っています。監督が思うような完璧なキャスティングは不可能だし、ロケ地もイメージとは違ったものになってしまいがちです。今回は伊東蒼さんが高校に通っていたため、彼女の夏休みに合わせての撮影になったんです。撮影期間が1カ月というのは、そのためです。キャストもスタッフも、その1カ月に合わせて集まってもらったわけですが、結果的にはこれ以上はないキャスティングになったし、当初の予定から変わりましたがロケ地も最適な場所になったと思います。