――今後は映画というジャンルにこだわることなく活動するんでしょうか?
紀里谷 分かりません。創作活動からは一度離れるつもりでいます。僕だけじゃなくて、クリエイティブな仕事をしている人はみんな悩んでいるんじゃないですか。スポーツ選手の場合は試合に勝利するという明確な目標があるわけですが、今の僕には何をもって勝利と呼べばいいのか分からない。ただ、売れる作品をつくればいいのか?と。一度、紀里谷和明というものを殺してみたいという気持ちがすごくありました。先のことは分かりませんが、もしかするとまったく違う名前で作品をつくるようになるかもしれないし、むしろそのほうがいいのかもしれない。それともうひとつあるのは、『世界の終わりから』以上の作品を今の自分が撮ることはできるかと問われ、「撮れる」とは思えないということです。
――映画監督としてのすべてを『世界の終わりから』では出し切ったと。
紀里谷 そうなんです。『CASSHERN』は全国拡大公開でしたが、今回は今まででいちばん小さな規模での公開スタートです。すでに上映館が増えて45館ほどになっていますが、どのくらい広がっていくのか楽しみだし、自分の伝えたいテーマ性がきちんと伝わっていることが実感できています。そうした実感が感じられることは、クリエイティブな仕事をしている人間にとっては興収結果よりも大切なことなんです。そういう意味では、今の僕はすごくハッピーでもあるんです。映画監督になったことは後悔していませんし、自分では天職だと思っています。僕にとって映画づくりは仕事ではありません。神聖な行為なんです。映画づくりは宗教的な、神に近づく行為だと誰かが言っていましたが、僕もその言葉に共感しています。『世界の終わりから』は本当に純粋な気持ちで完成させることができました。この20年間の苦しみが、救われた気持ちでいるんです。
『世界の終わりから』
原作・脚本・監督/紀里谷和明 撮影/神戸千木
出演・伊東蒼、毎熊克哉、朝比奈彩、増田光桜、岩井俊二、市川由衣、又吉直樹、冨永愛、高橋克典、北村一輝、夏木マリ
配給/ナカチカ 4月7日より新宿バルト9ほか全国公開中
©2023 KIRIYA PICTURES
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●紀里谷和明(きりや・かずあき)
1968年熊本県生まれ。15歳で米国に渡り、デザイン・絵画・音楽・写真などを学ぶ。フォトグラファーとして活躍後、ミュージックビデオの監督としても脚光を浴びる。2004年に『CASSHERN』で映画監督デビュー。2009年に『GOEMON』、2015年に『ラスト・ナイツ』を公開。短編映画製作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」に参加し、ショートフィルム『The Little Star』(22)を監督している。