悩み苦しむ姿が実人生とも重なる
ダーレン・アロノフスキー監督は、主演俳優をブレンダン・フレイザーに決めるまで約10年を費やしていたのだという。ありとあらゆる検討をしても、ひとりとして納得できずにいた中、決め手となったのは2006年の映画『復讐街』の予告編でのフレイザーを観て、嬉しさのあまり顔が輝いたことだったそうだ。
そのフレイザーは、実は体調の悪化、結婚生活の破綻、そしてセクシャルハラスメントを受け鬱状態になったなどの様々な要因で、ハリウッドの表舞台から遠ざかっていたことがある。その復活劇としても、この『ザ・ホエール』の意義は大きく、その俳優としての物語そのものが感動的だ。彼の実人生が(もちろん理由そのものが違うことを前提として)劇中の悩み苦しむ姿ともリンクしているようにも見えるのだから。
ちなみに、1992年の映画『原始のマン』で共演したフレイザーとキー・ホイ・クァンが、揃ってアカデミー賞の主演男優賞と助演男優賞を受賞したという、運命めいた巡り合わせもある。最多7部門を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がぶっちぎりで注目を集めたが、この『ザ・ホエール』の完成度も決して引けを取らない。ぜひ、劇場でこそ、フレイザーの一世一代の熱演を、目に焼き付けてほしい。
『ザ・ホエール』
4月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
監督:ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワン』『レスラー』)
原案・脚本:サミュエル・D・ハンター
キャスト:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
【2022 年/アメリカ/英語/117 分/カラー/5.1ch/スタンダード/原題:The Whale/字幕翻訳:松浦美奈】 PG12
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