◆俳優としての才能に恐れ入った瞬間

©2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会
 本作はストーリーがあってないようなものというか、あらすじ的にはよくわからない。ところが、俳優としての井口の魅力に気づいた途端、彼の演技にぐんぐん引き込まれる。

 ススメには一応好きな相手がいる。植物だらけの部屋で植物園のような空間を作る宮子(馬場ふみか)が謎の人物として映る。馬場のポカンとしたミステリアスな雰囲気が井口の演技を引き出す。いつもはススメが宮子の部屋に通う側なのだが、右足を骨折した彼の家に宮子がやってくる場面が素晴らしい。

 料理を作るねと言ってサラダを運んできた彼女の足元にススメが腹ばいになって近寄る。彼女の右足首に誕生日プレゼントのアクセサリーをつけてやる。宮子は足元を見て綺麗と一言だけ発し、ススメは頭上を仰ぎ見る。この低いポジションでの井口の表情、上を向くタイミングなど、完璧に計算されている。俳優としての才能に恐れ入った瞬間だ。