◆アーティストが俳優になること
本作の井口がここまで普段のアーティストイメージ(ないしはビジュアル)と違うのか。理由は簡単。俳優として画面上に存在することにだけ徹しているからだ。
ファッションブランド「GUCCI」一族の争いを描いた『ハウス・オブ・グッチ』(2021年)で、主人公の妻を演じたレディ・ガガがまさにそうだった。アーティストとしてステージに立つときの派手なビジュアルを脱ぎ捨て、ほとんどすっぴん顔で悪妻役を熱演していた。
同作のガガのように井口も映画に出演(ましてや初主演)するからには、カリスマ的なアーティストの姿をここはきっぱり封印する。映画俳優に徹する丸裸の自分をカメラの前にさらけ出す。アーティストが俳優になることは、こうした潔い覚悟が前提にある。