◆カリスマ的なイメージを壊す“俳優映画”

©2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会
 ああ、この映画よくわからないな。と思っても、諦めずに目を凝らしてみるとどうだろう。高校の古文テストに似ていて、一度わからなくなるとストーリーを楽しむことはできなくなる。すると残るは、俳優の演技に集中するしかない。『ひとりぼっちじゃない』は、そういうタイプの映画だ。

 主人公・ススメを演じるのが、「King Gnu」の井口理ということで期待は十分でもあった。筆者は本作を劇場で見る前、地下鉄の改札前で井口が映る広告を目にした。サントリーのウイスキー「碧Ao」の広告ビジュアルに岡田将生とツーショットで写る井口は、クールなたたずまいでいかにもアーティスト然としている。この広告を見たあとでは、本作から受ける印象はあまりに違うだろう。

 本作には、「King Gnu」でイメージするカリスマ的な井口はどこにも見当たらないからだ。黒目の半分に瞼(まぶた)がかぶさり、終始なんだか頼りない表情を浮かべている。カリスマ的なイメージを全力で壊しにかかる井口の“俳優映画”をどう観るか。