『リバーサルオーケストラ』はスピンオフまで必見

 「ドラマ序盤ランキング」で期待作からもガッカリ作からも外れ言及しなかったが、今期は『リバーサルオーケストラ』も素晴らしかった。こちらは二度記事を書かせていただいたが、既視感が強いベタなストーリー運びに、正直いって第3話ぐらいまではそこまで引き込まれなかったものの、玉響(児玉交響楽団)のメンバーの結束が深まってオーケストラとして機能し始めてから俄然おもしろくなってきた。初音と奏奈の姉妹ゲンカシーンなど、演技や演出面では第1話から見るべきところは少なくなかったが、ドラマ中盤、物語が動き出してきたことで実力派俳優たちの演技力や、丁寧な演出がより生きるようになり、ストーリーを輝かせてきたように思う。

 前にも書いたとおり、物語自体は特に目新しいものはないが、決定的な悪人といえるキャラクターが存在せず(津田健次郎演じる本宮の小悪党っぷり!)、終始さわやかな音楽モノの青春ドラマとして突き進んだことで、余計なノイズを感じることなく、玉響の面々を応援する気持ちで観ることができ、最後まで晴れやかな気持ちを抱かせてくれた。恋愛要素もなかったわけではないが、あくまでも主軸は音楽であるという割り切り方も英断だっただろう。初音は朝陽に堂々と矢印を向けていたが、最終回で伝えた「あなたじゃなきゃダメなんです!」は愛の告白ではなく音楽仲間としての言葉だったし、最後も指揮者とコンマスとして互いに感謝を伝えあって握手するという終わり方だった。もちろんそのまま手をつないで歩く姿は、2人が結ばれる未来を予感させたが、恋愛要素はあくまで添え物だということが伝わる爽やかなエンディングだっただろう(逆にスピンオフは恋愛面に振り切っている)。

 複雑なものを抱えた“闇”のあるキャラクターを演じることの多かった門脇麦が、とにかく明るくてポジティブで、妙に(オタク的な)早口キャラを演じているのも新鮮だったし、初音の愛らしさは、玉響が結束していく説得力にもなった。田中圭も、クールなようでいて内面は熱く、絶妙な塩梅のツンデレを見せるという役柄は、意外に演じる機会が少ないように思えるが、間違いなく好演だった(特に最後の指揮シーンは熱演のひと言)。

 高階藍子に玉響が頭を下げる最終回の場面で、ヨーゼフだけがそのまま突っ立っている(しかも二度とも)といったところにも表れていたように、細部においても、それぞれのキャラクターがしっかりと立ち、描かれているのも印象的なドラマだったが、個人的には「チャイ5」の演奏シーンの描き方についても拍手を送りたい。この手の音楽作品によくあることとして、演奏シーンの合間に説明ゼリフを挟むことが往々にしてよくある。その必要性もわからなくはないが、本作では、演奏開始から1分ほど後に彰一郎が「すごい……」とこぼすのみで、それ以外には何の邪魔も入らず、7分以上、彰一郎のセリフから数えてもおよそ6分にわたって視聴者の耳を演奏のみに集中させた。オーケストラを主題にしたドラマだからこそ、ちゃんと音楽を聞かせる。当たり前のようだが、残念ながら意外にそこまで思い切った作品は少ないのだ。