『鎌倉殿の13人』は三谷幸喜の円熟ぶりに唸る作品だったが、『ブラッシュアップライフ』も、『架空OL日記』や『素敵な選TAXI』のバカリズム脚本のひとつの到達点といえるだろう。あるあるに満ちた会話劇と、そうした何気ない部分からの見事な伏線回収もさることながら、バカリズムらしいメタ台詞、ゲーム好き(特にRPGなど)らしさがうかがえる周回要素などにも引き込まれた。なかでも、90年代後半~00年代を中心とした時代のトレンドや風俗の取り入れ方は、タイムループものであるからこそ「今どの時期か」をわかりやすくする機能的な面もあるうえに、“地方都市のごくごくふつうの女子たち”を描くうえでも重要だったと思われるが、主人公たちと同時代を生きた視聴者をさらに作品世界に引き込む要素でもあった。
なじみのキャストにも支えられつつ、豊川悦司、江口のりこなどの豪華俳優陣をチョイ役で出してくるのにも驚かされたが、俳優側から「出演したい」というオファーも多かったというのも納得だ。最終回については、バカリズム自身が「自分にとって打ち上げみたいな感じで書いていた」と言っていたとおり、大きなドラマが起こることなく、穏やかなエピローグといった感じだったが、「地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディ」らしい着地でもある。最後にみーぽんの「うちら」発言が意味するところで視聴者を戸惑わせつつ、Hulu独占配信のアナザーストーリーはいい意味でしょうもないエピソード(いい話もあるが)なのも、本作らしい。まだ先に何かあるのではないか、さらなる壮大な伏線回収があるのではと思わせながらも、ただのコメディですよ、と肩透かしで締め括るあたりもバカリズムっぽい。
あーちんの1周目で「Go to hell」のパーカーを着ていた市役所勤めの河口美奈子が、それまでは同じ人生を何度も繰り返しなぞってきたのに、4周目のあーちんに影響されてそれを止めたことで5周目のあーちんを救い、しかし結局は元の市役所生活に戻って「Go to Hometown」パーカーを着ている、ということが象徴的だ。あーちんがドラマP時代に自分が企画したドラマ(『ブラッシュアップライフ』)のストーリーが地味すぎるということで脚本家や監督によってどんどん“ブラッシュアップ”されてしまったように、4周目と5周目はしっかりと目標を持って人生をやり直していたあーちんだったが、結局は地元に戻って元の“地味”に落ち着く。しかし、それは本当の意味での「元」ではなく、そこにはちゃんとまりりんもいる。まりりん(ぴょろたん)が人生6周かけて手にした結末だと考えると、4人の穏やかで地味な「その後」は、実はかけがえのない時間だ。『ブラッシュアップライフ』というドラマをこうして我々が楽しめたのも、何周目かのバカリズムがようやく掴んでくれた奇跡の一端なのかもしれない。