──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

 『どうする家康』第12回は、今川氏真役の溝端淳平さんの好演が光りました。溝端さんは声が良いですね。台詞回しも格調高く、「悲劇の貴公子」としての存在感が抜群でした。父・今川義元が教育に失敗したとの説まである氏真ですが、ドラマの義元(野村萬斎さん)からの評価は、まだ若い現時点では「将としての才はない」ものの、「夜明けから夜半まで武芸に学問に誰よりも励んでおる」努力家であることは認められており、「己を鍛え上げることを惜しまぬ者は、いずれ必ず天賦の才ある者をしのぐ。きっとよい将になろう」と評されていました。

 しかし、義元が嫡男の将来に期待を抱いていたことは氏真には伝わっておらず、義元が桶狭間で織田信長に討ち取られたことで、氏真は父の真意を知ることがないまま、父親(や家臣)に認めてもらえないとコンプレックスをこじらせていきました。そんな氏真は、皮肉にも掛川城での徳川軍との泥沼の攻防戦の最中、「将」として覚醒します。氏真は数少ない兵を鼓舞し、自身も最前線で弓を引いて戦い、4カ月という長期間、善戦し続けます。しかし、ついに敗戦が確定し、家康との一騎打ちにも敗れ、自害しようとした氏真を引き止めたのは、正室・糸(志田未来さん)の口を借りて伝えられた、尊敬する父・義元の言葉だったのです。