同じくハウルを狙う荒地の魔女は、ハウルの美しさに魅入られている。高齢の魔女は魔法の力でなんとか自分の姿を維持しており中盤、サリマンに力を奪われただの老婆にされてしまう。醜い自分の姿を直視できず、ハウルの美に惹かれるのはあまりにもグロテスク。
サリマンも荒地の魔女も同じようなもので、ハウルといういいなりになるイケメンを、そばに置いておきたいという欲求だけが肥大化している。現実世界にもこういう人、いますね。サリマンなんて従者と呼ばれる同じ顔、同じ格好の美少年を多数、侍らせているんだから。ハウルを手に入れたら絶対同じことさせるよ! そんな人間が一国の戦争を左右しているって怖くない?
権力者と欲求が肥大化した妖婆同士のイケメン獲得バトルロイヤルに参加させられるのは自己肯定感の低い純朴なヒロイン、ソフィーである。ほかの二人はハウルの美しさだけに目を奪われているが、彼女だけはハウルの内に潜む闇に気づき、その穢れをとってやろうとする。ソフィーが城を掃除するのは、ハウルの心の穢れを綺麗にするということだ。
終盤、崩壊する城の中でソフィーは、子供のころのハウルが流星となって降り注いだ火の悪魔、カルシファーを飲み込むことで、彼の心臓と交換する契約を果たすのを目の当たりにする。なぜソフィーが時空をとびこえられたのかの説明はまったくなく、中盤~終盤の展開は駆け足に進んでいき、観客の理解を超えている。タイトルにもなっている「動く城」にしたって、後半ではデザインが変わってしまっている(!)。