欠点もあるが、ハードルをはるかに飛び越えた圧倒的なパワー

 ここまで絶賛したが、この『BLUE GIANT』には欠点もある。特に、多くの方が指摘している通り、3DCGの荒さはどうしても気になる。それまでの手描きのキャラクターの印象とかけ離れていて、没入感を削がれてしまうのはもったいない。だからこそ「ここぞ」という時の、「一枚一枚が手描きの凄まじい演奏」がギャップとなり圧倒されるというのは、皮肉的でもある。

 個人的に気になったのは、終盤で「涙を流している」カットが多く使われていることだった。映像作品であまりに劇中のキャラクターが泣きすぎているというのは、逆に冷めてしまいかねない諸刃の刃。これは終盤で同じく音楽の力が重要となるアニメ映画『竜とそばかすの姫』でも思っていたことである。トゥーマッチにも思える涙の演出は、もう少し控えてもよかっただろう。

 だが、そんな欠点も「100億点マイナス30点」くらいに思えてしまうほどのパワーが本作にはある。

 何より、原作漫画では「圧倒される演奏」を画の力に加えて想像で補うことができるが、映画ではその演奏を実際に聴かせて、本当に圧倒させなければならない。その大きすぎるハードルを、超一流のジャズ奏者の、キャラクターそれぞれの感情や成長をも表現した演奏と、アニメだからこその表現でクリアーした、いやはるかに飛び越えていた。