悠依と直木は、お互いが運命の「白いねこ」だった

 息を飲んだ第9話から一転、サスペンス要素はなく切ないながらも幸せに満ちた最終話となった。思い返せば『100よか』は「“切なくて温かい”ファンタジーラブストーリー」と銘打たれたドラマであり、事件の謎解きが本筋でないことは明らかだ。しかし劇中で早々に直木の死が確定したとき、これほど前向きなエンディングを誰が想像しただろう。

 砂浜へ向かうシーンでは、悲しい結末になる予感もあった。この作品のモチーフのひとつとなっている絵本『100万回生きたねこ』を読んだ魚住は、直木との最後のひと時へと向かう悠依を心配し、思わず「白いねこは、どっちですか?」と訊く。迷いなく「私にとっては直木です」と答える悠依。『100万回生きたねこ』では、縞模様のとらねこは何度も生き返るが、美しく白いねこと出会うことで愛を知り、白いねこが死んでしまうと、生まれて初めて泣いたとらねこはそのまま亡くなってしまい、二度とよみがえらない。直木が「白いねこ」であることは、悠依がもう帰ってはこない可能性を示唆する。呆然とした魚住は、「“鳥野直木がいない世界なんて意味わかんない”……って神様に怒鳴りながらでもいいです。帰ってきてください。そう思ってるのはあなただけじゃない」と伝えた。

 だが思えば、悠依は第2話で『100万回生きたねこ』の結末について、「私は嬉しくないな、こんなの。わたしが白いねこだったら、100万回泣いてくれるのは嬉しいけど、でも死んでほしくない。100万回泣いたら、そのあとは元気にピンピン生きてってほしい」と言い切っていた。そしてそんな悠依を直木は好きだったのだ。悠依が魚住に「帰ってきますよ。魚住さん何言ってるんですか」と、さも当然のように答えたのも、悠依らしさだった。

 直木にとっても悠依が「白いねこ」であることは、第1話から伝えられていたが、最後の買い物デートのシーンも象徴的だった。悠依は直木に2種類の服を見せ、「どっちがいい?」と訊く。ひとつは縞模様、もうひとつは白。「世界一不毛な質問」と愚痴りながら直木が選んだのは、白。悠依は意外そうに驚きながら、この白の服を着て最後の時間を過ごす。お互いにとって、相手が運命の「白いねこ」だったのだ。そして残された悠依は、「元気にピンピン」生きていくことを選んだ。悠依のその後が描かれないまま終わったのは、そういう意味で意図的だったのかもしれない。