◆山崎育三郎マジックここにあり
幸せを実感するのは視聴者に限らず、物語の中の登場人物もまた例外ではない。クリニックにやってきた遠野志保(松本穂香)は、大学病院勤務で失敗ばかりしている研修医。看護師の向山和樹(栗山千明)から卓が作ったドイツ菓子をひとつもらい、隣り合わせた子どもに促されてひとくち。病院では教授から怒られてばかりいた志保だったが、一瞬のうちにぱっと明るい顔になる。ドイツにいた卓が再現するドイツの味ひとつでこうも簡単に憂鬱な表情を変えてしまうのだ。
このクリニックには発達障害の子どもたちが通院しているが、実は志保も小さい頃、先代の院長で卓の叔母であるりえ(風吹ジュン)による診察を受けていた。自分がミスばかりしてしまうことを発達障害ではないかと思い続けてきた志保は卓に診察を頼み、予想通り発達障害だと診断を受ける。
志保は、医者になることを諦めようとするが、それをとどまらせる卓のもと、クリニックで新たに研修医となる。ここから卓はすこし脇に回って子どもたちと真摯に向き合う志保のことを見守る。それが「つながり」を作る「リエゾン」(フランス語で「連音」の意味)の役目であるように。
佐山宅役を通じた山崎育三郎マジックここにあり。どうやら院内には人生を前向きに捉え、生きる処方せんが、そこかしこにあるようだ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu