◆将軍を超えて、母として娘を優しく抱いた吉宗

 ここからの吉宗と家重のふたりのシーンには、身じろぎできず、ただ涙があふれた。本作で幾度も描かれてきた、自分の孤独を、苦しみを理解された、受け入れられたことの喜びが描かれた。「役立たずだから死にたいと。裏を返せば、それは生きるなら人の役に立ちたいということ。違うか」と問うた吉宗に、家重が返す。「私にもできますか。誰かの役に立つことが」と。

 それを聞いた吉宗は立ち上がり、家重の体をしっかりと抱いた。将軍を超えて、母として。

 第9話の将軍は、危機に瀕した日本国の母であると同時に、苦しむ我が子の母だった。そしてその子・家重は、自らを表現する術が分からずに、自分など役立たずだと苦しみ、いっそピエロにと、好色や酒におぼれて、一層自らの殻を硬く閉じていた。そんな自分を母は「私はそなたをバカだと思うたことは一度もないぞ」と理解し、<その苦しみは、役に立ちたいからこそであり、その気持ちがあるならば、覚悟を持って生きよ>と、鍵を開けて抱擁した(もちろん、それは母に進言した家重を支える周囲の理解があってこそで、家重にはそこにも気づいてほしい)。