◆実際に“小便公方”と呼ばれていた徳川家重

 家重には、言語や排尿に障害があったため、とても将軍職は務まらないと思われていた。しかし、彼女の知能は正常だった。いやむしろ、非常に高い知力を備えており、そのことは将棋を指す姿からも見て取れた。

実際に“小便公方”と呼ばれていた徳川家重
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 家重は、自分の体に閉じ込められていたのである。それを小姓頭の大岡忠光(岡本玲)は理解していた。「家重さまは大層頭の切れる方におあします。けれど、ご自分の考えをうまく表す術をお持ちにならない」のだと。新しく小姓として入った龍(當真あみ、のちに田沼意次となる)は、家重の心の内を思い、どんなに辛い、歯がゆい毎日を過ごしているのだろうと涙を流した。

 実際の歴史でも、徳川家重は“小便公方”と酷い揶揄を受けている。綱吉は犬公方と言われ、田沼意次は賄賂政治家と呼ばれたが、歴史は記す立場の者によって残された面しか見えない。史実の家重への評価も、障害ゆえの偏見だったのではとする向きがある。

 本作の家重はさらに抜きんでた知能を持っており、自分自身へのいら立ちや、周囲の反応に、より辛さを感じていたはず。そして最も尊敬する母・吉宗の目の前で粗相までしたことで「私など死んだほうがいいのだ。私のような役立たずにできることは、死ぬことだけだ」と苦しむ。吉宗は、これを龍から伝え聞き、家重を訪ねた。