周りの大人に従って、箱におさまっている自分を、なんとなく良くない気はしていて、モヤモヤして、だけど抜け出す勇気はなくて。息の苦しい家族との食卓に身を置くオカジの姿は、少し前の自分だった。ちひろさんの隠し撮りをしながら跡を追ってしまうオカジの心情は、ちひろさんに憧れはあるけど向き合えない、という私の心情に重なるものがあった。
そんな私は今、これまでの箱から抜け出して、新しい道に進もうとしている。それは、ちひろさんに憧れていたあの頃の心情とは明らかに違っていて、今の私だったら、ちひろさんの瞳を恐れず、まっすぐ見つめられる。そんなふうに思えた。
人間は、本当に臆病な生き物だと思う。
自分が世界に存在する意味を見つけたくて、安心したくて、人や、物や、地位や、教え、名前に縋る。そんなの、その人自身じゃないのにね。
先の見えない不確かな道は、こわくて正直不安しかないけれど、だけど、そんなふうに決して前向きじゃない感情も、怒りも悲しみも孤独も全て受け入れて生きることで、また違う世界が広がる気がするから。そして、そんな複雑な感情全てをエネルギーに変えられるのが、表現の世界だと私は思うから。
【こちらの記事も読まれています】