元風俗嬢、町の小さなお弁当屋さんで働くちひろさん。人や地位や居場所に執着せず、自由で、孤独を恐れない。人の心を射抜くような、鋭くて、偽りがない言葉を投げかけてくれる。猫のようにするりと人の間を潜り抜け、いつかふわっと何処かに消えてしまいそうな、そんなちひろさん。私が人生で出逢ってきたどの大人にも当てはまらなかった。

「ちひろさんみたいなかっこいい大人になりたい!」
「私もちひろさんとお友達になりたい」

 そう心から思い、私にとって憧れの人となったのが、だけど私は、ちひろさんの瞳を見つめ続けられる自信はなかった。あの瞳に、今の自分を見透かされてしまう気がして、こわかったのだ。

 衝撃的な読書体験以降、『ちひろさん』はマンガという娯楽の域に留まらず、私にとって哲学書となり、断捨離をして大切な本しか並んでいない私の本棚の中でも、今でもダントツ一番に大切な漫画となった。