なるほど、田津原はネタのなかで準備したTシャツについて一切触れないし、ただただ捨てられるだけのカードがあったりもする。準備の大変さとネタのなかの扱いが比例しない。小田の言葉を借りれば「とんでもなく効率悪い」。だが、そのあたりのツッコミが書き込まれていない“余白”というか“ツッコミしろ”のようなものがむしろ面白い。見ていると、録画なり配信なりで捨てられたカードの内容を1枚1枚確認したくなる。後追いでツッコミしたくなる。後追いツッコミ欲のようなものが刺激されるネタだった。

 今年のR-1は、そんなネタを披露した田津原がチャンピオンとなった。ファイナリストのなかではもっとも世間での知名度が低いであろう芸人の優勝。ネタが面白ければキャリアは関係なく評価されるという意味で、それは夢がある結果かもしれない。R-1に夢がある事実を証明したようにも見える。

ただ、あべこうじが語ったことをふまえるならば、夢はチャンピオンになったこと自体にあるのではないだろう。その称号はあくまでも「切符」のようなもの。自身の夢を形にするための「切符」のようなもの。

 さて、新たなチャンピオンを生んで幕を閉じた今年のR-1だけれど、最後のほうにちょっと面白いシーンがあった。田津原とコットン・きょんで争われた最終決戦が終わり、審査員の投票結果が発表される場面。4人目のバカリズムまでで田津原に2票、きょんに2票が入り、陣内の投票結果でチャンピオンが決まる流れになった。「おー」と歓声をあげる観客。拍手をするなど盛り上げる審査員。そんな異様な雰囲気に、陣内も「ちょっと待って!」とオロオロする姿を見せ、開票が少し中断する展開となった。

 なんだか、最後に「もうひと展開」あって面白かった。