◆恥の器はいつも満タンに

左から春日武彦氏、平山夢明氏
平山:ここで拝見したところでちょっと思ったのは、他人にどう思われようともう構わないんで、やりたかった趣味みたいなのを始めるといいんじゃないかな。あのね、割と昔の年寄りってみんな趣味を持ってたじゃないですか、僕らの上の世代っていうのは。金魚育てるでもなんでも趣味を持ってたんですよ。

 ところが今の40代から下の人たちって、やっぱり小さい頃から一生懸命勉強したりなんかしてきたせいかどうか分かんないんだけど、ゼロから組み上げていくような趣味があんまりない。もうある程度用意されている、定食屋に行って、はい食べるだけみたいなゲームとか、ああいうのはあるんだけど。ゼロから本当に自分がちょっとずつ進めていくような趣味ってあんまりないような気がするんですよね。

 釣りの趣味を持ってるような編集者は、やっぱスピリッツ強いですよ。別に趣味と仕事を分ける線を引く必要は全然ないけど、趣味って映画を観たりするのと同じように、没頭できるじゃないですか、その時間だけだから。

 あとはなんだろうな、スポーツを始めると良いような気がする。なんでかっていうと、恥かけるので。

春日:ああ、恥ね。なるほど。

平山:だって初めてやるじゃん。うんといっぱい恥かくじゃないですか。「恥の器」っていつもいっぱいになってるほうが僕はいいと思うんですよ。慣れるから、恥は。

春日:うん。

平山:これ、恥の器が空っぽになると、入ってきた恥にすごく敏感に動いちゃうんですよ。「うわー」って。「やっちゃった」と思うんだけど、でもね、常日頃から器いっぱいに恥があると、「どーも、すいません(笑)」みたいな感じで対応できる。なんでこれを言いたいかっていうと、僕、芸人に仲間が多いんですけど、あいつらはすごい心臓が強いんですよ。

左から春日武彦氏、平山夢明氏
春日:タフだよね。

平山:お客が全然笑わなくても平気で帰ってきたりするんで。「お前、なんで?」って言ったら、「いや、やっぱり最初はもう本当に落ち込んで、震えたりもしてたんだけど、そのうちコップがいっぱいになって、ある日、気にならなくなる。だから全然平気なんですよ」って言ってましたから。ただ、そいつは芸人なんで、「それが気にならなくなったらダメだろう。だから売れないんだよ」って言いましたけど(笑)、でも、一般の人なら良いわけじゃないですか。

 ただ、会社だったり、恋人や家族の前でじゃできないかな? イヤだから。刺さるから。でも、「ダメですよ。そういうこと」と怒られても、「すみません」とか言って、自分から「ニセの恥」を詰めこめばいいような気がしますね。

【春日武彦(かすがたけひこ)】

1951(昭和26)年、京都府生まれ。医学博士。日本医科大学卒。産婦人科医を経て、精神科医に転進。都立松沢病院精神科部長、都立墨東病院神経科部長などを経て、現在も臨床に携わる。著書に『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎新書)、『猫と偶然』(作品社)、『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)、『奇想版 精神医学事典』(河出文庫)、『鬱屈精神科医、占いにすがる』(河出文庫)などがある。

【平山夢明(ひらやまゆめあき)】

1961(昭和36)年、神奈川県川崎市生まれ。法政大学中退。デルモンテ平山名義でZ級ホラー映画のビデオ評論を手がけた後、1993年より本格的に執筆活動を開始。実話怪談のシリーズおよび、短編小説も多数発表。短編『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社文庫)により、2006年日本推理作家協会賞を受賞。2010年『ダイナー』(ポプラ文庫)で日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を受賞。最新刊は『俺が公園でペリカンにした話』(光文社)。

<文/山崎奎司>