◆仕事が劇的に進んだ魔法の言葉

平山:「噓やごまかしは俺は分かるからな」っていうのが「デーッ」って出てたんで「あ、これはダメだ」と思って。ほいでとりあえず「話をしろ」って言われたんで、いろんな話をしたら春日先生がまず一発で「部屋がめちゃくちゃ汚いんじゃないか」って言われて。当時は事務所で仕事してたんだけど、その通りだったんですよ。

 なんでかっていうと、ベタ踏み状態になると、頭の中が「すべての時間をその仕事に費やして、少なくとも何かを考えてないといけないんじゃないか」って金縛り状態になっちゃう。もう、遊んじゃいけないわけ。とにかく、それ以外のことをしちゃいけない。余計な想像すらできなくなってくる。

「掃除や片付けをする」より「作品のことを考えるべき」って自分で思っちゃって、それがずーっと半年も1年も積み重なるから、もう家の中はゴミ屋敷みたいな状態になってた。で、春日先生に「とりあえずキレイにしなさい」と言われて。「それでもダメだったらもう1回、ちょっと考えよう」みたいな話があって。その日は薬ももらえず、ただ叱られて帰ってくるっていう(笑)。「お前、家、汚ねーだろ」って言われて帰ってきたんですよ(笑)。

 それでも、もう他の手がないんですよ、そのときの僕は。まったくないんで。「えーっ?」って思うじゃないすか、普通。

原稿用紙
※イメージです
「家や部屋が汚いからキレイにしろ」って当たり前の話で。でも、プロが言ったんで。大名医じゃないですか。もう扱ってる患者の厄介(やっかい)さでいったら日本有数の人が「お前、掃除しろ」って言ったんで、「掃除かぁ……」って思いつつやったんですよ。そのときはもう「掃除という名の治療だ」って自分で決めて。床をグリッドっていって……あの死体が埋められているときに(警察が捜査で)テープを貼るじゃないですか……グリッドってマスにして、そこで1個ずつね、スポンジで磨いて。

 トイレもピッカピカにして、いらないものは全部捨てて。するとまた、いらないもの出てくるんですよ。もう目が変わるっていうか、「捨てよう」と思った瞬間に捨てるものが見える。「捨てまい」と思ってると捨てるものは見えないじゃないすか。

 大掃除が終わって「キレイになったなあ」と思ったら、その瞬間にサイドブレーキが降りたんすよ、バーンと。引っ張ってたのがポコーンと外れたの。結局3日かかったんですよ。部屋を3日間朝から晩まで掃除して、ほんで帰って次の日来た瞬間に、「あっ。なんかこれ、すっきりしてるな」と思って。

 その日、まず3本~4本、書けたんですよね。話がポンポンポンって。なんでかって言ったら、とりあえずキレイなんで、焦(あせ)らなくて済むんですよ。書いた話がもしダメでも、「いいや、部屋がキレイだから」っていう、わけの分からない感じ(笑)。

平山夢明氏
 今までのマックスでダメだったところが、部屋がキレイになってるっていうだけで「今の自分の状況はまだ悪くない」ってちょっと思えるようになってきた部分があって。それで先生のところへ行って、「いや、ちょっと書けるようになりました」って。僕、その年に3~4冊出したんですよ、怪談。一気に出せて。先生に「どうしたことですかね?」って言ったら、先生がおっしゃったのがね、僕はいまだにそれは確かだなと思ってるけど、「頭脳労働をしたり創作活動や仕事といったタスクをこなしていくときに必要なのは『人間としての環境』であって、汚いとか、ぐちゃぐちゃになってると『巣』になっちゃう」っていう。

「動物の巣と一緒だ」って。そこでは能率が――脳の中の活性が全然高まらないんだ。ただ居心地はいいわけ。自分の匂いとか、そんなのはもうべちゃべちゃついてるから、「そこでは人間としての脳の活性みたいなもののレベルが下がっちゃうからダメだよ」って言われて、「はぁー、やっばり春日先生の言葉は薬だったんだな」って(笑)。

 あれは僕はもう本当感謝して、いろんなとこで書いて。ツイッターでも結構、いい評判がつきましたけど。

春日:よかったですね(笑)。

平山:ありがとうございます。

春日:次、行きますね。