◆原稿が書けなくて診察室を訪問したら「白衣モード」で威圧感
――企業の社内メンタルヘルス研修を依頼された春日・平山両氏は、「やる気が起きないという病理」をテーマにふたりで講師をつとめることに。“やる気が起きるために必要な条件”の一つとして春日医師は「状況、環境の単純化」を挙げましたが、編集者&ファン泣かせの遅筆で知られる平山氏は思い当たるフシがあるようで…。
春日武彦(以下、春日):えーと、それから「状況、環境の単純化」っていうことで。やっぱりとっ散らかってる状態、ダメっすよね。
平山夢明(以下、平山):それも昔、先生に言われましたね。
春日:じゃ、その辺のお話を平山さんから。
平山:はい、ちょうど今からもう20~30年ぐらい前ですよね。
春日:松沢病院(編集部注:東京都立松沢病院。前身の東京府癲狂院は1879年に開設され、長い歴史を持つ)に僕がいた頃。
平山:そうです。その頃、僕が全然書けなくて。「書こう」「書こう」の「アクセルベタ踏み状態」になってたんですよ。アクセル踏んでブレーキ上げちゃってるんで全然動かなくて。ただ実話怪談を書いてたんで、その当時、コンビニでその本が売られてたんですよ。コンビニだと発売日が決まってるんで、絶対にズラせない。
なのに「全然書けない」って言って。それでもやっぱり書いて納期に押し込むじゃないですか。それだと充足感がないんで、だんだん虚しくなってくる。そのときに俺、春日先生に「なんか精神科のほうでは、飲むとやる気が爆上がりする薬があるそうですね」っていう話をしたら「なんの話をしてるんだ」って言われて。「一度、話を聞いてやるから」っていうことで。そのときはもうちゃんと「病院に来なさい」っていう話で、病院にお伺いして。
春日: 本当に来たんでびっくりしました。仕事してたらさ、外来看護師が不審そうな顔で「あの、こんな患者さんが来てます」って。
平山:そう、俺行ったんですよ。だってもうね、あの有名な松沢ですから。「あ、先生、ここだ」と思って。で、病院に僕が行ってハッと思ったのは、今ね、こうやって目の前にいるように穏やかな先生じゃないです。ニコニコして何を言っても抱きしめてくれるようなね、感じがあるじゃないすか。けど、白衣を着て……あんときは、ちょっと別室でしたよね。
春日:うん。そこだけちょっと離れた診察室。
平山:応接室じゃなくてやっぱ、診察室ではあったのかな。そこ行って、白衣で先生が見えたら、やっぱちょっと違うんですよ、雰囲気が。なんというか「白衣モード」なの。
春日:そりゃ、さすがに商売中はそれなりに、ね(笑)。
平山:全然、別に睨(にら)むとかないんですけど、「とりあえずお前、噓は言うんじゃないぞ」っていう感じ。
春日:威圧感があったんだ(笑)。