◆冨永愛の振られっぷりにしびれる
人間ドラマも健在。これまで狡猾、小物に見えていた現・大奥総取締の藤波だったが、彼は自分なりの信念を抱えて大奥で生きてきた。そんな藤波の人間的魅力を、片岡愛之助が静かににじませ、「人は牛馬ではございません」「上様から選ばれた。それはここの男たちの人としての誇りなのでございます!」と語り、生き様を見せた。藤波は、決して小物などではなかったのだ。膝行(しっこう)の所作もさすがの美しさだった。
藤波からの指摘にも見られる吉宗の「私はどこか人として、すっぽりと欠けておるのかもしれぬ」は、ひとつの大きな悩みになりうる。だが、もともと年若い頃から多くの人とは違う自分を自覚していた吉宗である。そして彼女のそばには、欠けていることを「そんなことはありません」と変に否定するのではなく、「何ひとつ欠けるところがない者など、果たしてこの世におるのでしょうか」と認めたうえで、そんな吉宗を支えると言い切る杉下(風間俊介)と、久通がいる。
また、メロドラマ的要素は少なかった第8話だが、吉宗が女性としての幸せを求めたシーンもあった。やはり魅力ある男であったことを再認識した水野に、「私も女じゃ。ぐるっと幸せというのなら、もう一度、私も幸せにしてみるというのは」と、吉宗がやんわり女の身として告白したのである。
ここで水野は「もちろん。上様のために、赤面の薬を探し出して見せまさあ!」と、上様からの命を受けたのだと反応する。実に爽やかに。見事に振られた吉宗だったが、「うん。頼むの」とそれ以上は踏み込まない姿が、またしびれる振られっぷりだった。