前回のコラムで予想した通り、一揆を率いる「軍師」は本多正信(松山ケンイチさん)だったわけですが、ドラマの正信は、何のためらいも見せずに家康を火縄銃で狙撃していました。正信は、一揆方についた土屋長吉重治(田村健太郎)を利用し、長吉の言葉を信じて家康がやってくるのを本證寺の屋根の上で待ち構えていたわけで、明らかな殺意が感じられました。

 ドラマでは、家康の家臣の離反は、信仰心の問題だけでなく、歩き巫女の千代(の裏にいる何者か)の工作によって起こったものという解釈で描かれているように感じられました。史実では本多正信の裏切りは信仰心によるものとみられていますが、ドラマの正信はとてもそのようには見えません。主君を殺そうとしている時ですら、うっすらと微笑んでいるかのように見えた正信の表情はこの上なく不気味でした。しかし、一方で主君を暗殺した後に自分が成り上がろうといった野心も見えず、アナーキスト的な存在なのでしょうか。正信が家康を裏切った真意はどこにあるのか、ドラマでどう描かれるかが非常に楽しみです。

 前々回のコラムでは、本證寺に出入りしている歩き巫女の千代(古川琴音さん)というドラマのキャラクターのモデルが、武田信玄の隠密だったといわれる望月千代女ではないかともお話ししましたが、その可能性も濃厚となってきましたね。今回は謎めいた千代という人物、そして彼女のモデルと思われる望月千代女について、掘り下げたいと思います。

 『どうする家康』の家康は服部半蔵(山田孝之さん)と配下の服部党を重用していますが、実際に家康やその他の戦国武将にも忍びの者を使った逸話が多くあります。なかでも忍びとの関係がもっとも深い戦国武将の一人が、武田信玄だといわれます。