思春期まっただ中の広志の目には、クラスメイトの夏美がまぶしく輝いて見える。カメラのファインダー越しに映る夏美は、ことさら美しい。こちらを振り向く表情は、たまらなく魅力的だ。
なぜ、ファインダーの中のヒロインは、かくも美しいのだろうか。そんなシンプルな疑問にも、小中監督は答えてくれた。
小中「ファインダーを覗いて見る光景は、モニターに映るものとは違うんです。ダイレクトに自分の目で見ていることもあり、気合の入り方が違ってくる。モニターを通すと客観的なものになりますが、ファインダー越しの場合は『カメラの絞りはどうする? 照明は?』などと想像しながら見ているわけです。いわば心の目で見ている状態です。カメラマンの感情がすごく入っています。商業映画を監督するようになってからも、自分でカメラを回す作品もやってみましたが、周りから止めたほうがいいと言われました。作品全体を考えながら、客観的に見ることができなくなってしまうからです。ファインダー越しに見つめていると、すごく感情がたかぶってくるんです」
カメラに映る夏美は、とても魅力的だ。しかも役を通して、物語の中に溶け込み、広志にとってとても近しく、特別な存在に感じられてくる。8ミリ映画の中で擬似的な恋愛を体験する広志だったが、同時に失恋も味わうことになる。
小中「中学で男子2人の物語として撮ったSF8ミリ映画を、高校に入ってほぼ同じ内容で、ヒロインを初めて起用して撮り直しています。当時の僕は恋愛未経験でしたが、女性を初めて描くのにどうして気の強いヒロインを設定し、主人公が振り回された末に失恋する物語にしたのか、今から考えると不思議ですね。僕自身のその後を予見したかのような内容になっています(笑)」
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