突然、父親がいなくなってしまった子どもをケアするほどの余裕もなく、自分の心の傷も癒せていない裕子も気がかりだ。かと言って、慎一自身も小説を書くことができないイラ立ちや不安で、他人を気遣っている余裕はない。
それでも傷のある者同士、時には傷を舐め合いたくなるもの。そして慎一と裕子が一線を越えてしまった関係の先にあるのは、再生か、それとも崩壊か……。
似合うと言うとなんだか失礼な気もするが、松本まりかは『ぜんぶ、ボクのせい』(22)でもそうだったように、傷を抱えていて、どこか不安定感のある役を演じるのが得意だと確信した。思い返してみれば、『妖怪シェアハウス』のお岩さんもそうだ。
吹けば飛ぶような疑似家族となっていく不安定な3人ではあるが、未来など見えなくても、今がどうにかなっていれば、とりあえずそれでいい……。そう思って生きていくことも、案外悪くないのかもしれないと思わせてくれる重圧な作品だ。
『夜、鳥たちが啼く』
出演:山田裕貴、松本まりか、森優理斗、中村ゆりか、カトウシンスケ、藤田朋子、宇野祥平、吉田浩太、縄田カノン、加治将樹ほか
監督:城定秀夫 脚本:高田亮
原作:佐藤泰志「夜、鳥たちが啼く」(「大きなハードルと小さなハードル」所収 / 河出文庫刊)
エグゼクティブプロデューサー:藤本款 プロデューサー:秋山智則 姫田伸也
制作協力:Gemini Films 製作・配給:クロックワークス
2022 年/115 分/DCP/ビスタ/5.1ch/日本 R15+
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