しばらくして、僕の父が癌で亡くなり、以前は明るかった母親も塞ぎ込むようになり、自殺しようとしたんです。幸い命に別状はなかったんですが、それから母は『なんてバカなことしちゃったんだろう』と自分自身を責めるようになったんです。東京にいる僕のところに、朝の4時ごろ電話してきて『死にたい』と訴えることもありました。
そうこうしているうちに新型コロナウイルスが蔓延し、映像関係の仕事がなくなってしまい、自分も生きることにどん詰まってしまった。年齢的なことも関係するんでしょうが、死にたいと考えている人に『がんばって生きようよ』という言葉は届かないものです。それならば、死にたいと思っている人の気持ちを、まずは受け止めることが大切じゃないのかと考えるようになったんです。
コロナ禍における文化芸術活動の再興支援『AFF(ARTS for the future!)』から600万円の補助金が今回の企画に下りることになったのですが、AFFは1年以内に映画を完成させることが条件でした。そこで自己資金と合わせ、2021年に北海道で撮影することを決めたんです」
さまざまな想いや諸事情が重なり、10年以上凍結されていた企画が再起動することになった。新しい脚本には『名前のない女たち うそつき女』(18)や『草の響き』(21)の加瀬仁美、また脚本協力として『さよなら歌舞伎町』(14)や『終末の探偵』(22)の中野太が参加している。
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