鎌田「井土さんはヒューマニストです。そのとき書いてくれた脚本も、死にたいと考えている主人公と一緒に旅をする若者が『死ぬのはよくない』となだめ、主人公は考え直すという前向きな物語だったんです。希望を感じさせる終わり方でした。だからこそ、スポンサーも見つかったわけです。でも、僕はどうしても撮影には踏み切れなかった」
死にたいと考えている人に、安全な立場から励ましの言葉を与えても、どれだけの意味があるだろうか。死にたいと考えている人を、否定せずに描くことはできないか。そんな葛藤から、鎌田監督はクランクイン寸前だった企画を中断させてしまう。
前作から17年ぶりとなった長編映画『タスカー』。一度中断した企画に再度取り組むことを決意したきっかけを、鎌田監督は打ち明けてくれた。
鎌田「北海道に帰省していた際、高校時代の同級生と再会しました。とても明るいヤツで、介護の仕事をしていたんですが、鬱になって、仕事を休んでいたんです。『今なら鎌田が撮る映画を手伝えるぞ』『じゃあ、一緒にお金を集めるか』などと冗談っぽく話していたんです。でも、その翌月に同級生は自殺してしまいました。
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