鎌田「病気で亡くなった人を看取ったことはあっても、自分から死のうとしている人間の最期の顔は見たことがないので、俳優がどんな表情をするのかを、僕からは演出することはできませんでした。俳優に委ねるしかなかった。素晴らしい表情を3人とも見せてくれたと思います」

 16ミリフィルムで撮影された北海道の空は、劇中ずっとどんよりしている。「天気待ちしている余裕はなかった」と鎌田監督は語るが、主人公たちの心情をあたかも反映しているかのようだ。

 およそ20日間の撮影期間を経て、ようやく『タスカー』は完成し、2022年に北海道で先行上映が行なわれた。嘱託殺人という重いテーマに挑んだ本作だが、死ぬことばかり考えていた主人公が死に際で決意が揺れ動くなど、非常に人間くさいおかしみも感じさせるドラマとなっている。劇場で笑いが起きるシーンもある。一般的なハッピーエンドとは異なるが、絶望の淵に立った主人公たちが眺めた光景の中には、少なからず希望も残されていたように思う。

鎌田「嘱託殺人や自殺幇助を全肯定するつもりはありませんが、自殺してしまった人の人生や死にたいと考えている人のことを、僕は否定したくない。死について考えることを一方的にタブー視するのではなく、いろんな考えを持つ人たちと話し合えるといいなと思うんです。この映画がそのきっかけになれればいい。