実際に起きた嘱託殺人事件と未遂事件

 嘱託殺人をテーマにした『タスカー』を企画・脚本から手掛けた鎌田義孝監督は、1964年の北海道生まれ。ピンク映画『若妻 不倫の香り』(98)で商業監督デビューを果たし、本作と同じく北海道で撮影された『YUMENO ユメノ』(05)以来の長編映画となる。何が鎌田監督を突き動かし、17年ぶりとなる長編映画を撮らせたのだろうか。

鎌田「前作『YUMENO』は一家を惨殺した殺人犯が、彼に家族を殺された女子高生を連れて逃避行する犯罪ものでした。菜葉菜さんの初主演作で、彼女には女子高生を演じてもらいました。『YUMENO』は殺人を犯した若者の物語だったので、次は反対に死を考えている中年男の物語を撮れないかと考えたんです。

 『YUMENO』のシナリオを書いてくれた脚本家の井土紀州さんは犯罪事件に詳しく、2003年に東京で嘱託殺人未遂事件があったことを教えてくれました。中古パソコン店の経営者が自分に掛けた保険金で負債を返済しようと考え、闇サイトで知り合った少年に殺人依頼したという事件でした。僕も調べてみると、同じ頃に韓国で似たような事件が起きており、こちらは未遂ではなく殺人に至っていました。殺人と殺人未遂、二つの事件を隔てたものは何だったんだろうと。映画として撮ってみることにしたんです。

 2006年ごろ、井土さんと一緒に北海道東部を回り、脚本を書き上げてもらいました。スポンサーも見つかり、配役も固まりつつありました。でも、そのときは撮影できなかったんです」

 進み出した企画を一度止めてしまうと、再起動させるのは難しい。そのままお蔵入りしてしまうケースがほとんどだ。そのことは鎌田監督も充分に分かっていた。