実際に起きた嘱託殺人事件から着想を得た『タスカー』は、こんな物語だ。章二(金子清文)は根室でロシア人相手の中古電器店を営んでいたが、経営に行き詰まり、「死にたい」という願望を抱くようになっていた。妻と長男に先立たれた章二は、老いた両親に預けている小学生の娘に、せめて保険金だけでも残そうと考える。

 娘に多額の保険金を残すには、自殺ではダメだ。自殺サイトで知り合った元シンガーの早紀(菜葉菜)に「殺してほしい」と懇願する。借金を抱える早紀は、保険金の一部を受け取る約束で、嘱託殺人を承諾する。

 交通事故に見せかけた2人の殺人計画に、廃品回収業に従事する若者・幸人(佐野弘樹)が加わる。違法投棄を繰り返す幸人も、生きる希望を見出すことができずにいた。

 絶望の淵をさまよう3人は、引き寄せ合うようにして出逢い、そして章二を乗せた車は海へと飛ぶことになる。思いのほか、車はあっけなく海に沈む。だが、そこから先は死のギリギリの境地に立った人間の本能がむき出しとなる、予想外のドラマが待っていた。