そんな整えられていない“記録”のなかでは、場面はスナップショットのように切り替えられ、価値観も時に反転する。ハイボール片手に店の外を見ながら、小峠がつぶやく。
「夜10時で、ちょいちょい制服を着た高校生がうろちょろしてるっていう。荒れてるよねぇ。いい街だな」
世間一般の良識からいえば、「荒れてる」の後に続くのはネガティブな言葉である。はっきりと語られない場合でも、「荒れてるよねぇ……」と沈黙を交えるなどして、ネガティブな印象がわかる人にはわかる形で暗示され、共有されたりする。
だけどこれは、そんな世間的なチェックをくぐる前の“記録”である。だから言葉の秩序は一旦解かれ、「荒れてる」と「いい街」が結びつく。もちろん、テレビでもよく見るロックな私服(革のライダースジャケット)を着た小峠のビジュアルや、彼のぶっきらぼうな口調が「荒れてる」と「いい街」を無理なく統合する。
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