◆苦しみを全身から噴き出す仲と、それを受ける山本の凄さ

苦しみを全身から噴き出す仲と、それを受ける山本の凄
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 このいわゆる濡れ場は、綱吉の置かれた人生を私たちが実感する上で、外すことのできない描写だった。綱吉が叫ぶ。「わたしはこうして毎夜、毎夜、そなたらに夜の営みを聞かれておるではないか!」「将軍とはな、岡場所で体を売る男たちよりも卑しい、この国で一番卑しい女のことじゃ」と。視聴者も画面を通して、綱吉の夜の営みを覗き見た。そしてドキッとしたり、「これ放送していいの?」と思った人も多いのではないだろうか。ひと様に見せるべきではない「恥ずかしいこと」を見ているという考えが、どこかにあったから。それを綱吉は常にしてきたのだ。

 苦しみを全身から噴き出す仲と、それを受ける山本。目の前にいたのが、右衛門佐だったから、綱吉も仮面を外せたのだろう。なぜなら右衛門佐は、綱吉の心からこうした叫びがあがっても、おそらく不思議ではなかったから。

 娘として、母として、女として、将軍として苦しむ綱吉の姿は意外なものではなかった。右衛門佐にとって綱吉は、決して「すぐに立ち直らはるわ」「お好きですもんね」(by御台所&大典侍)な人ではない。それが、静かな山本の受けの芝居から伝わってくる。だから、ただ抱きしめた。しかしこの抱擁は、綱吉を掬い上げたとは言えない。綱吉を理解した右衛門佐は、ともに堕ちていくのだろうか。

<文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi