◆怒り、諦め、悲しみ、哀れみとさまざまな感情を映す仲の顔に涙

怒り、諦め、悲しみ、哀れみとさまざまな感情を映す仲の顔に涙
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 世の頂点にいた綱吉の人生は、松姫の死によって狂っていったかに映るが、そうではない。綱吉、徳子は、そもそもボロボロだった。松姫の死が最後の一撃となったのだ。

 将軍として生まれ、有功を慕い続ける父・桂昌院から世継ぎを生むことだけを求められ、そのためにも器量よし、イコール見た目がいいことを絶対条件とされた。それが若くして大奥に入った世間知らずな父にとっては愛情表現なのだと感じるからこそ、反発できない。そんな徳子にとって、松姫は宝だった。繁殖牝馬のような日々に違和感を覚えようと、傷を見ずに生きてこられたのは、愛する娘がいたから。その支えを失った……。松姫という光が消えた徳子は、もともとの傷と、抱えきれない大きな大きな傷を負った。そんな徳子に、桂昌院は「“松姫によう似た”かわいらしい子、もう一辺、わしに見せてくれ」と非常に残酷な言葉を投げる。怒り、諦め、悲しみ、哀れみとさまざまに移りゆく感情を映す仲の顔に涙した。

 徳子は、将軍・綱吉として、化粧という仮面を身に着ける。もはや大奥は、煌びやかな牢獄だ。そして松姫の死は、右衛門佐にも変化をもたらす。知性に溢れるふたりは、だからこその不穏な出会いから始まったが、学問好きな共通点が、その関係を近づけていった。また、「種付けをするためだけに生まれてきたのか」との個人的な葛藤を右衛門佐が綱吉に漏らしたことで、一気に距離を縮めた。そこに右衛門佐の作為は感じられなかった。